人工放射能の対人影響

 埼玉大学名誉教授市川定夫によると、人工放射能は生体内、人体内に異様に高く濃縮され蓄積されていくものがあると指摘している。人体は自然放射能とは適応してきた歴史があり、天然の放射性物質であるカリウム40は人体から適時排出する機能がある。カリウムと元素表で同族であるセシウムカリウムよりも排出速度が遅く人体に蓄積する。放射性セシウムカリウムとして認識され腎臓から排出されるが、時間をかけて体内に徐々に蓄積されていく。
 今まで放射性がなかった元素に放射性のものを作ったときには体内で濃縮が行われる。人体はカリウムについては排出能力を有するが、天然のヨウ素は全て非放射性であるので、人体は放射性ヨウ素を天然ヨウ素と同じく濃縮蓄積する。カルシウムに近い性質を持つストロンチウム90も同じである。ストロンチウムは骨に集まり代謝されにくい。
 元ゴメリ医大学長ユーリ・バンダジェフスキーは、放射性セシウム(Cs)の継続的摂取により、子どもの白内障、奇形出産、不妊、若年者の突然死(心臓疾患)、肝硬変、赤血球の減少、腎不全といったさまざまな疾患が現れる事をチェルノブイリ事故を通じて証明した。Cs137の体内における慢性被曝により、細胞の発育と活力過程が歪められ、体内器官(心臓、肝臓、腎臓)の不調の原因になる。大抵いくつかの器官が同時に放射線の毒作用を受け、代謝機能不全を引き起こす。Cs137は血管壁の抗血栓活性を減弱させ、血管中の血液凝固過程を亢進させて血栓ができやすくなり、心筋梗塞脳梗塞など起こしやすくなる。Csによる持続的放射線の影響で2-3年すると腎臓が損傷して、慢性腎機能不全、脳と心臓との合併症を進展させる。
 平均40-60Bq/kgのCsは、心筋の微細な構造変化をもたらすことができ、全細胞の10-40%が代謝不全となり、規則的収縮ができなくなる。体内Cs100bqで、100%心臓に異常が起きる。突然死する心筋Cs量閾値は個人差があり、1bqでも10bpでも起きうる。
 ベラルーシ、ベトカ地区での調査では子供達に白内障が増加。体内汚染が50bq/kgの子供の30%が白内障になり、白内障を患った子供達で現在生きている子は殆どいない。被曝により栄養の摂取が阻害されることにより体内の老化が急激に進むことが原因とされる。
 α線核種が皮膚に付着した場合、皮下奥までα線が届かず、α線が届く範囲の細胞を全部殺す。よって、丸くエッジが明瞭な穴が開き、時に出血し、あまり痛まない。β線核種の場合は、1粒子の大きさが大きい場合、皮下深くまで届き、神経を傷つけ、痛みを伴い、エッジが不明瞭な発赤ができ発赤の範囲も広くなる。さらに大きな粒子の場合、手や指が丸ごと腫れ、回復が遅く、しばらく腫れて激しく痛む。福島第一原発に近い地域ではAm(アメリシウム)などの短寿命α線源によって鼻血や皮膚の穴が開く症状が起きた。現在起きている鼻血はβ線源の付着が主要因であり、内部被曝が進行して、粘膜に炎症を起こしやすくなっている。
 ICRP放射線被曝による病気と認めてるのは甲状腺癌や白血病や奇形児であるが、放射線は人体に万病をもたらす。放射線被曝による身体的影響は、最初に増殖性の強い細胞に出る。リンパ細胞白血球、腸上皮細胞、血管内皮細胞である。つまり、内部被曝で最初にリンパ細胞が破壊され白血球が減少、免疫力低下による感染症増加、既存化膿病巣悪化が発生し、虫歯による歯痛や水虫悪化、下痢、血管疾患、心筋梗塞脳卒中脳梗塞、糖尿病、肝臓障害、腎臓病、甲状腺疾患が起きることにになる。そして、生殖腺精原細胞卵母細胞、骨髄などの遺伝子を破壊し異常増殖が起きれば癌になる。白血病、脊柱や肺への癌、膀胱癌、腎臓癌、甲状腺癌、乳癌、肺癌、悪性リンパ腫、精巣腫瘍、多発性骨髄腫、骨肉腫などが若年層を中心に発生する。また、母親の子宮の中にいるうちに被曝を受けて生まれてきた子供たちの中には、脳の発達停止、白内障、遺伝子の突然変異、先天性の奇形、神経系異常や水頭症などの疾患が発生する。
 チェルノブイリ事故後、6年経ってから様々な疾病が激増した。汚染地域での循環器系(心筋梗塞や血管内膜炎)の疾病率は100%近い。毛細血管の血流抵抗増加と血流量の減少が起きる。一方、癌というのは発症数からすると極わずかであって、内部被曝による恐ろしさは血管への打撃や免疫低下によってあらゆる病気に羅患することにある。甲状腺癌は染色体7番のq11領域の遺伝子が破壊されて発生する事が分かっている。白血病の原因は小腸の絨毛の損傷にあり、最大の原因は放射能であり、次いで薬剤である。
 甲状腺機能障害による脳機能低下、もしくは脳そのものへの打撃により、脳機能障害、記憶力低下、精神症状、脳の萎縮、言語能力の低下、手足の動かす能力の低下が起きる。脳細胞は再生せず放射能による影響を受けやすい。脳機能低下は知覚しづらいが、程度の差はあれ100%の確率で発生する。
 放射線が体内に存在する酸素分子に当たると電子を吹き飛ばし、スーパーオキシドやヒドロオキシラジカル等の活性酸素フリーラジカル)が発生し、タンパク質や核酸に損害を与える。ミトコンドリアの破壊が進むと、TCA回路(クエン酸回路)が阻害され、筋肉のエネルギー代謝にブレーキがかかり体が動かしにくくなる。症状が進むと極度の倦怠感が発生して社会生活が困難になる。いわゆる「ぶらぶら病」(慢性疲労症候群)である。

放射性核種ごとの対人影響
 米ワシントン州ハンフォード再処理工場は、近くのコロンビア川に亜鉛65を含む放射性廃棄物を放流していた。400km下流のウィラパ湾で取れる養殖場のカキを常食していた労働者に、大変高い濃度の亜鉛65が検出された。海水中の濃度は低いレベルだったが、牡蠣はこの放射性核種を10万〜100万倍にも濃縮した。牡蠣は1日約300リットルもの海水を濾過する。他の生物よりも圧倒的に海水濾過量が多い。つまり、牡蠣は海の汚染を取り込んでしまう。
 イカの肝臓は、海水中の放射性銀(Ag-110m)(半減期250日)を数百万倍も濃縮する。軟体動物はヘモシアニン(人間ならヘモグロビン)が銀を集め、海水の6万倍に達する。人はヘモシアニンを持たないので、放射性銀がどこかの臓器に特異的に集積することはない。放射性銀の経口摂取でもっとも線量を受ける臓器は、大腸下部壁である。魚はセシウムの値が1000bq/kgを超えていても放射性銀がNDである場合があるが、逆にイカセシウムがNDでも2桁の放射性銀が検出される事がある。Ag-110mは、Ag-109が中性子を捕獲することで作られる放射性核種である。βマイナス崩壊により、β線γ線を出して崩壊し、カドミウムCd110(安定同位体)になる。
 セシウムCsは体内に入っても後続摂取を断てば二年程度で排出される。ただし排出速度は遅く、膀胱中1リットル6bqの放射性物質が15年慢性の刺激を与え続けると腎癌や膀胱癌になる。
 放射性ストロンチウムSrは二価結合でカルシウムと同じ性質を持ち、生物はカルシウムと見分けることができず必須元素として摂取する。水溶性であり、とりわけ水棲生物に生物濃縮を起こしやすい。Srが体内に入ると容易に骨沈着し、骨の成分となって死ぬまで代謝されない。Cs134の生物学的半減期は90日だが、Srは実に50年である。糖尿病と白血病を引き起こす。概算でストロンチウムセシウムの300倍の毒性を持つと言われる所以である。
 Sr90が核崩壊してイットリウム90ができる。イットリウム膵臓に濃縮される。β線被曝で膵臓の機能が低下して、インスリン分泌が低下して糖尿病が増加する。
 2011年7月に鶏の餌には法律で魚粉を混ぜる事が義務づけられた。魚粉とは魚の骨などでストロンチウムが入っている可能性がある。鶏卵や鶏の骨のSr汚染に留意すべきである。
 原子力発電所が稼働すれば、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンなどの放射性希ガスが放出されるが、化学的にフィルタすることはできない。トリチウムも水素の同位体なので取り除けない。キセノンやクリプトンなどの放射性ガスのエネルギーが、大気の酸素と窒素を反応させて、酸化窒素をつくる。原発の温排水は酸化窒素だけでなく、酸素原子が三つくっついたオゾンも作り、藻の激増(赤潮発生)に繋がっている。
 水素が宇宙線の影響でトリチウムになることがあり、トリチウムは人体の特定部位では濃縮されない。
 ウランは微量ながら海中に存在してきたが、生殖腺に溜まることが分かっており、劣化ウラン弾被曝により子供に影響が出ている。
 プルトニウム(Pu)239の半減期は2万4千年,ウラン(U)235は7億4百万年で、PuはUの約3万倍の被曝影響を与える。Puはヨウ素セシウムに比べて経口摂取で11倍〜13倍程度、吸入摂取では6000倍〜16000倍、人体に与える被曝影響が強い。原子炉級プルトニウム239の年摂取限度(酸化物のとき,各種同位体含む)は吸入摂取で一億分の2.8g=16000bq、経口摂取で一万分の1.4g=8100万bqである。福島第一原発3号機原子炉及び燃料プールには32帯ずつ9%のPuが含まれるMOX核燃料が使われていた。
 仮に放射線の影響を無視できるレベルになるのが半減期10回とすれば、Puに関しては24万年を必要とする。使用済み核燃料の10万年保管は人類が便宜上設定した一つの節目に過ぎない。
 2012年5月国土交通省は、東日本大震災の被災地で発生したがれきなどの災害廃棄物の処理を推進する一環として、総合評価方式による直轄工事の入札で、災害廃棄物の焼却灰を原材料に加えたセメント(再生セメント)を使用する建設会社を加点評価することを決めた。ホームセンターの市販品セメントを計測したという証言によると、Cs33Bq/kgと言う数値であり、他に鉛、ヨウ素ビスマス等が検出されたとの事だ。