「サマーウォーズ」病める帝国主義には血縁地縁の大同団結をもって当


(ネタバレあり)
○学校が舞台であった「時をかける少女
 アニメで保守・革新というカテゴライズをするとなれば、「学校への依存度」がその尺度となるでしょう。学校を舞台としてどの程度用いるのかがアニメの保守度を指し示すということです。そういった意味においては細田守監督の劇場アニメ作品「時をかける少女」は万難を排した保守的な作品であったと言えます。
 学校が舞台であれば、若年層にとっては親しみやすい舞台であり、いかなる人にとっても学校はノスタルジーを感じさせる解りやすい設定なのであります。
 1979年の機動戦士ガンダムは学校へ登校する前に戦乱に巻き込まれてしまい、学校自体はでてきません。ホワイトベースの人間模様そのものが学校的ではありますが、従来の作品よりもサイエンスフィクション色が強い尖った作品でありました。
 学校なきSFアニメが成功するには、多くの人に受け入れて理解して貰えるだけの磐石な世界観を提示する必要があります。学校依存度から推し量ると、私は「時をかける少女」は安全を踏んだ手堅い作品であったと、考えております。

○舞台は大家族の旧家へ
 さて、サマーウォーズは出だしは学校ではありますし、学友佐久間敬は学校の部室から連絡を取り続けます。とはいうものの、舞台は大家族の旧家に移り、OZという仮想空間との行き来でストーリーは展開していきます。出だしからOZ内部の描きこみ、台詞回し、演出共々高クオリティーで始ります。最後までテンションが途切れません。どのカットもきちんと明瞭な意味があり、計算し尽くされたストーリテリングに驚愕させられます。
 89歳になる陣内家の16代目当主陣内栄を中心に、困難に直面した家族・社会への対処が組み立て実行されます。死して尚、遺言を持って一族を導く様が描かれます。

○論功行賞にはやる陣内侘助と能力を悪用するアメリカ帝国主義
 陣内家の当主だった大おじいちゃんの隠し子である陣内侘助は渡米して人工知能研究を行い、ハッキングAI「ラブマシーン」を作ります。その成功を手土産に華々しく祖母陣内栄に会いにきます。ところが、よかれと思って開発したAIはアメリカ国防総省がOZ上で実験で暴走を始めます。侘助と祖母栄の愛憎が悲劇を産むわけですが、侘助の能力が結実したプログラムを躊躇なく兵器として実証試験を行うアメリカ国防総省の存在も描かれます。
 悲劇的事態に直面した陣内栄が一族に伝えた教えとは、病める帝国主義には血縁地縁の大同団結をもって当るべし、ということです。これをエンターテイメントの絵空事と考えるか、国難に直面する日本国に対する諫言と見るかは人それぞれです。

○反米の系譜を継承するか
 BLOOD+コードギアスと続いた反米の系譜には、元CIAが原作を著した劇場実写映画「レイン・フォール」、手塚治虫原作の劇場実写映画「MW(ムウ)」などが続いています。
 ポスト宮崎の呼び声も高い細田守監督ですが、本作をして優れた演出家としてだけではなく、高い作家性をも帯びてきています。ポスト手塚としての反米の系譜をも継承するか、大いに注目されるところです。

(参考)
サマーウォーズ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%BA#.E3.82.A8.E3.83.94.E3.82.BD.E3.83.BC.E3.83.89
2009年9月9日、民主党鳩山由紀夫代表は社会民主党国民新党との連立政権樹立合意後、松井孝治参議院議員の勧めで、都内の映画館で鑑賞した。

サマーウォーズ問題その2(グローバル資本主義と家族回帰)
http://d.hatena.ne.jp/psb1981/20090904/1252060827

「「悪」としてのアメリカ〜アニメーションと「反米」」  戦闘美少女文化
http://navy.ap.teacup.com/bouei-bunka/36.html
「No.2である不安〜「コードギアス」の鬱屈」  戦闘美少女文化
http://navy.ap.teacup.com/bouei-bunka/37.html