Stereo2013年8月号付録スキャンスピーク製スピーカーユニット

[:]

 かつて雑誌の付録戦争というのがあったらしい。雑誌の付録が豪華な方向に過熱して、規制が一時期強化されたが、2001年に雑誌付録の規制が緩和された。近年、また雑誌付録の豪華競争が増してきているようだ。
 もっとも、付録といってもファション雑誌の衣服関係だったりしていた訳で、原価はたかが知れている。しかし、昨今のオーディオ・ホームシアター雑誌の付録の豪華さには目を見張るものがある。スピーカーユニットはアンプキットなどが付録として付くようになった。また、スピーカーユニットといっても組み立て式だったり、単に廉価品だったりしていたわけだが、どういうわけだが、Stereo誌2013年8月号に付録となったスキャンスピーク製スピーカーユニットはネオジム磁石製であり、性能はかなり高いものであった。スピーカーメーカーの人が言うには「原価割れしている」そうであり、素人目にもその通りだと思われる。


Stereo2013年8月号付録
ユニットのスペックは以下のとおり。
型番:5F/8422-T03
マグネット:ネオジウム
インピーダンス:8Ω
最低共振周波数:118Hz
出力音圧レベル:80db
最大入力:50w
振動質力:1.67g
Q0値:0.53
バッフル穴口径:44mm

 これが驚くほど高音質の音を奏でるのである。

「お前はアホか?5cmユニットから高音質の音がするはずないだろ!」
と思われる向きもあるだろう。私も、最初はそのように考えていた。絶望的に低音が出ないだろうと予想した。しかし、幾つかキャビネット作例を聞き、ユニットの構造を聞いて高品位な音が出る理由が理解できた。

 まず、ネオジム磁石を使用したことによる磁束密度の高さが過渡特性の良さに繋がっている点。制動力が高いせいか、ダブルバスレフ型でもホーンスパイラル型でも朗々と低音域を鳴らしきる。
 ボイスコイル口径が26mmと一般的な16cm級ユニットと同等の口径のものが使われている点。一般的に「ボイスコイルのサイズ(径)を大きくすればそのユニットの音質も良い意味で太めでしっかりとした方向になる」との事。
(参考)ボイスコイルについて(2)
http://blog.goo.ne.jp/parc-audio/e/80970fa65ddd6adbb5081bc8444c8733

 振動板直径が小さいことにより4khzぐらいまでピストン・モーション(振動)する。人がもっとも鋭い感度を持つ3khz帯もピストン・モーションする。10cm級なら2khzぐらいまでがピストン・モーションである。それ以上の周波数帯域はコーンの一部が勝手な動きをするような形で「分割振動(または分割共振)」する。ピストン・モーションはコーン型のスピーカーで最も正しく音の再生のできる領域であり、分割振動帯域は音の再現性能が落ちる。
 当然、振動板が小さい事により低域の再生は不利となる。ネオジム磁石は小型で高い磁束が得られるので、背後が出る音の障害物としてはフェライトよりも比較的小さくできる。キャビネットによる低音増強がある程度しっかりしていれば、低音再生能力の不利益を一定程度相殺できる。

 振動板が一体成型である。一般的なコーン紙型スピーカー振動板はドーナツ型の振動板にセンターキャップを接着する。しかし、5F/8422-T03の振動板は一体成型である。接着面がないので強度が保てる事と、均一の紙厚による振動板としての特性利点がある。

 フレームが樹脂なのだが、金属系フレームよりも強度では劣るが、内部損失が高いので、音響上の優位な点もあると思われる。

 ボーカル物を聞けば、その性能に圧倒されるし、低音が高い音圧で入っているソースも朗々と奏であげる。「付録ごとき」に絶対的な性能や利点が存在することなどあり得ないと考えるのが常識だが、その常識を打ち砕くだけの性能を秘めている。1年経ってもまだ、売れ残っているのが奇跡としか思えない。

 DSDで生録音した「尺八」の音を聞いたが、あの尺八の「カスレた」が音を再現した。一般的な市販スピーカーではカスれた音は再現できないし、むしろノーマライズした人造的な音に置き換えられてしまう。
 現代はデジタルアンプによって「高解像度」の再生が可能になった関係もあって、5F/8422-T03はデジタル増幅時代でこそ真価を発揮しうるのかもしれない。

 ちなみに、 同じくスキャンスピーク製の10F/8422-03(Stereo誌2012年8月号付録) を聞いたが、フェライト製ということもあって、凡庸な音質性能であった。

次のミューズの方舟(オーディオ・クラブ)のレギュレーションは
「Scansperk 10F/8424G00 または 10F/8422-03(Stereo誌2012年8月号付録) 一発」
となっている。
http://d.hatena.ne.jp/musenohakobune/
Scansperk 10F/8424G00はネオジム磁石であり、5F/8422-T03の拡大版と考えて良いだろう。
http://blog.goo.ne.jp/4g1g4g0/e/1518f4592c386db7e401b8fe82975ac4
 特性は良いようだが、値段が高い。
スピーカーマニアでもない限り二の足を踏む価格だ。それでも複数のキャビネット作例を聞く機会はなかなか得られない。参加費無料なので視聴をお薦めする。

○大口径が良いという幻想
 低音を出すには大口径でなければいけないというのは幻想なのである。大口径ユニットは振動板が重くなる。振動板重量に比して強力な磁石が必要となり、制動するために強力に駆動力を持つアンプを必要とする。それで実際音を出すと「ガツン」とした低音がでるのだが、現実には「ガツン」とするような低音は存在しない。バスドラは「ドッ」となるが正解であって、「ドン」となる時点で、スピーカーユニットが「脚色」しているのである。
 オーディオ再生というのは何を目指しているのかという謎かけ問答になるわけだが、私は原音再生を目指すべきだと思う。演奏者の至近距離1mぐらいで生音を浴びるように聞ければ良いのだが、殆ど不可能である。プライベートで演奏してもらうか、ものすごい狭い演奏スペースで最前列で聞くしか無い。もしくはバンドを組んで、4帖ぐらいのスタジオで練習するしかない。と、私は偶然にもそういう経験を得られたので、一定程度生音がどういうものか身に染みて分かったし、その陶酔感を再現したいと願うのである。これは一種の麻薬的魅力であり、脳の陶酔を本能的に求める生物ならではの根源的な欲望でもある。
 一般的なオーディオマニアというのは『オーディオ装置による音の脚色』を楽しんでいるのであって、原音再生を目指している人はマイノリティである。長岡鉄男先生に私淑した人達は、基本的に原音再生派であり、工作に手間がかかるバックロードホーンタイプのキャビネットを愛好するのは原音再生のためでもある。

 はっきりいって15インチユニットはホーン増幅を使わないで済ますための「妥協の産物」であって、置く場所が許されるのなら、わざわざ選ぶ理由がない。メーカー製上位機種でも20-25cmの多連装が主流になりつつある。

○ボーズの呪縛
 私の自説では、オーディオが廃れているのはボーズの影響が強いと考えている。一般的な人がオーディオシステムに触れる機会があるのは、カラオケ店やライブハウスである。カラオケ店でも比較的大型で日本のメーカーのスピーカーユニットのは比較的音が良いのだが、ボーズの小型スピーカーだと致命的に音が悪い。ボーズ101イタリアーノではPST回路が入っている。
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/1458/audio/pst/
直列に抵抗が入るので音が猛烈に劣化する。また、低能率化によって音の分解能が落ちる。非力なアンプだと、かなりパワーを入れないとならないので、アンプ増幅の負担が大きくなる。
 確かに中高音の音圧を電気回路で下げているので、低音は相対的に大きくなる。低音がドンドンズビズバ鳴るには鳴るが、質は二の次三の次である。大体、パワーを入れないと情報力が稼げないので、一般住宅では使えない。
 あのボーズの糞サウンドを聞いて自宅に揃えたいとも思わない。他のメーカー製もボーズ基準に伍して低音の量感を稼ぐために、重たい振動板を使ったユニットを使用するので、音は悪くなる。音質劣化の悪のスパイラルであって、これがオーディオ市場を決定的にダメにしたと思う。

 カラオケ店もライブハウスも「だみ声ボイスチェンジャー」を目指しているのだろうか。美声の歌い手さんの魅力を見事なまでに粉砕してくれる。
 大体、ライブハウスのあの音量は殺耳的ですらある。高音質であるなら、あそこまでの音量を必要としない。安いフェライト磁石の15インチユニットを使うから、制動力がないので、音質が悪い。悪い音質を音量で潰してごまかしているとしか思えない。バックロードホーンを使ったライブハウスというのはないのだろうか?

 先日入店したロックバーというのも、定番のボーズスピーカーで、驚くべき糞サウンドだった。あれで良いと思っているのはなぜなのか?耳で聞いているのではなくて、「世の中ボーズだからボーズ」という、一種の宗教と化しているとしか思えない。せかっく人間には耳が付いているのだから、音を聞いて判断するべきである。


○オーディオ再生の再生
 パソコンモニター用スピーカーでは比較的小型でも良音質のものがある。重低音再生を捨てることによって、音のリアリティを稼いでいる小型スピーカーがあるにはある。これが、趣味としてのオーディオの再生に繋がるのではないかと思う。ヘッドフォンは窮屈だし、メーカー製の低能率で低音がでまくるスピーカーは自宅で使えない、しかし、パソコンモニター用のスピーカーなら夜でも使えるし、パソコン使用頻度が高いのであれば、ある程度お金を投じても、精神的な充足度が得られる。

○ケーブルについて
 デジタルケーブルはケーブル品質が直接音や映像に反映される。デジタルケーブルはモンスターケーブル社のものがC/Pが良い。それ以上を狙うと、なぜか値段の桁が一つあがる。数万円もするケーブルを買うぐらいなら、再生装置そのものに資金を投じた報が良いだろう。
 アナログ系は標準添付のものよりも、特別なメーカー製品や自作ケーブルで1段上の品質を稼げる。ただし、それ以上を狙うとなると、本当に良くなったのか判然としなくなる。音は変わったけれど、良くなったどうかは疑問というパターンが多い。概ね音の重心が低い方が性能が良い場合が多い。

○手っ取り早く高音質再生したいのならSACDが良い。
 CDプレイヤーの性能が向上して、CDでもかなりの高音質が得られるようになった。マルチビットDAC時代はアナログを意識していたのか分からないが、濃厚なのだが、音の分解能が低いサウンドだった。今時のフルデジタル伝送・フルデジタル増幅時代ではかなりの分解能が出るようになった。
 オーディオ再生で最も難しいのはフルオーケストラである。マスタリング技術が向上して、本当に高音質なSACDソフトが出回るようになった。お薦めはドイツ・グラモフォンや英デッカのSACDソフトである。
 高ビットレート音楽配信も始まっているが、音源はよくなっても再生装置の関係からか、実際の再現音はCDと代わり映えしなかたりする。SACD専用機による再生の方が手っ取り早く高音質が稼げる。
 DVD-Audioもあったが、CDの音を骨太にした感じであり、あくまでCDの延長線の音である。CDの音に慣れている人達には親しみ安いのかもしれないが、低音のしなやかさはSACDに分があり、原音に近いと思われる。


(参考)
Stereo誌付録ScanSpeak 5cmを使ったスピーカーシステム視聴体験記
http://ameblo.jp/takaomorimoto/theme-10079191046.html
今なら、まだ手に入ります!豪華特別付録!フルレンジスピーカー・ユニット
http://www.ongakunotomo.co.jp/kagutsu/k164.html

現代に甦る、究極のオーディオ観音力 (ONTOMO MOOK) [ムック]
http://www.amazon.co.jp/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%81%AB%E7%94%A6%E3%82%8B%E3%80%81%E7%A9%B6%E6%A5%B5%E3%81%AE%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA%E8%A6%B3%E9%9F%B3%E5%8A%9B-ONTOMO-MOOK-%E9%95%B7%E5%B2%A1%E9%89%84%E7%94%B7/dp/4276962374/ref=pd_rhf_eeolp_s_cp_2?ie=UTF8&refRID=11DB977V346085RTAKAH