山口薫博士の公共貨幣論を通じて経済の改善方法を考える。

 金融緩和により日銀によるベースマネーの増大し、銀行・金融業界は潤う。日銀は銀行が貸出を通じて信用創造するマネー増加については直接的な影響を及ぼしていない。
 銀行の信用創造に頼ったマネー供給体制は景気変動に伴う信用乗数増減によって、景気変動の振幅を大きくする。景気が良くなれば過剰に融資が行われ、一部は金融投機や不動産などに向かう。景気が悪くなれば「貸し剥がし」や債務返済による信用収縮が起きて、景気の悪化に拍車をかける。
 「1935年銀行法」(グラース・スティーグラ法)を1999年にクリントン政権が廃案としたことにより、大銀行が高いレバレッジ(梃子)をかけたデリバティブ金融派生商品)取引を増大させ、2008年のリーマン・ショックの引き金を引いた。
 デリバティブ残高は2008年当時6京円と言われたが、2016年現在14京円程度に増加していると言われている。

マネーストック=流通(現金通貨)+預金通貨
2013年4月現在
政府貨幣 4.5兆円 0.8%
日本銀行券 74.7兆円 13.5% 銀行券は民間銀行である中央銀行が発行
預金通貨 472.3兆円 58.6% 預金通貨は民間銀行が創造
「銀行・金融資本による貨幣を支配する体制となっている。」

 シカゴプランと呼ばれる貨幣改革案
? 民間会社である連邦準備制度理事会FRB)−米中央銀行−を財務省に統合し、政府のみ貨幣を発行する。
? 無からお金を作り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%政府貨幣とする。

 2011年9月21日デニス・クシニッチ下院議員によって提出された、NEED法(国家非常事態雇用防衛法 National Emergency Employment Defense Act)は、シカゴプランの2つの条件に第3の条件を付け加えた。
? 経済成長に必要な貨幣は、政府が常時流通に投入する。

「政府が通貨を常時流通に投入する」に関して「米国貨幣法」明文化している点
 財務省は議会に対して、アメリカ合衆国における、公共の福祉を促進するための交通、農業、水利用・確保、下水道システム、医療、教育、他のイン
フラストラクチャーシステムなど、実体経済を近代化、改善、更新することができる、政府による直接的な資金提供の機会について報告する。
 前年度に創出されたマネーの15%に相当する金額を12ヶ月の期間にわたり、各州に対して、一人当たり経済力に基づいた付与額を与えるための指示を行う。
 アメリカに住むすべてのアメリカ国民に対する市民配当に関する提案を行う。財務省は生産、価格、モラル、及び、他の経済・財政上の要因を観察しながら、この配当の効果に関する徹底した調査を行う。


雑感
? の中央銀行を完全国有化する利点は特定の金融財閥による影響力を低下させる点にある。現在FRBは100%の株式が民間に持たれている。金融財閥により中央銀行国有化議論は封じられる傾向にあると言える。
 歴史的に民間銀行が紙幣を発行する形式になっている。この理由は政府が財政破産したときに通貨価値を失わない為とされるが法定で価値を定める「法貨」時代の現在では中央銀行の資本を民間にしても、あまり意味がない。
よって、?は積極的に行われるべきである。

? については戦後の傾斜生産方式時代から高度成長期に近い状態と言える。銀行の貸出先については日銀が事細かに指導していた。
山口氏の懸念は取り付けによる銀行破綻である。?によって預金は全額政府が準備する状態にあるので、恐慌時の銀行破綻を防止できる。

?は事実上の社会主義体制である。
?と当時に?も行われなければならないが、政府に的確な与信能力があるのか疑問がある。
先端技術の設備投資額や企業買収金額が「兆円」単位の時代に、政府が経済統制しながら国際競争力に勝てるのかという疑念もある。

仮に日本でシカゴプランが実施された場合には、物的にはかなり供給が細ると想定される。共産主義時代のソ連邦や中国に近くなる。
ただし輸入依存度は低下するので、社会の持続可能性は高くなる。

私の個人的な意見としては、?は実施、??は実施せず、過度の与信やデリバティブを禁止する。かつての日銀窓口指導の時代に戻す。一方、人民同士で情報共有を進め、個人レベルで不要な産業への支出を減らして、淘汰させていく形が良いと思う。成熟した資本主義社会において、不要であったり、人に害をなす産業を、中長期的に縮小させなければ、幸福の最大化という観点から遠ざかり損耗が増えて不幸が増大する。
貨幣は材やサービスを媒介する便宜的に存在するものであり、使い方次第で幸福にもなり不幸にもなる。
国家の統制で貨幣を供給して経済を動かそうというの考え方は理想の一つではあるが、経済の停滞や社会の歪が増す可能性も考えなくてはならない。

(参考)
論文「シカゴプラン(貨幣改革)とその電力・製造業への活用 -アベノミクスを超えて-」2013年
http://web.archive.org/web/20140223004723/http://www.muratopia.org/JFRC/sd/macrodynamics/ChicagoPlan.pdf
山口薫 (経済学者)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E8%96%AB_(%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E8%80%85)
ディスカッション・ペーパー・シリーズ(同志社大学大学院ビジネス研究科)
http://bs.doshisha.ac.jp/studygroup/discussion_paper.html
『債務貨幣vs政府貨幣vs公共貨幣?』山口薫 AJER2014.6.2(6)
https://www.youtube.com/watch?v=LrDoGNHZN2A
日本未来研究センター理事長 山口薫先生講演「公共貨幣(シカゴプラン)で輝く日本の未来」
https://www.youtube.com/watch?v=lFIh-J5D800