米自治領プエルトリコ債務不履行問題が及ぼす米金融市場への影響

 2015年6月29日、米自治プエルトリコのアレハンドロ・ガルシア・パディラ知事は米政府に破産法の適用を申請した。7月1日付けの10億5000万ドルの利払いは乗り切った。


 プエルトリコの小島ビスケス島(Vieques)では、1940年代以来、米国海軍は爆撃演習場として島の4分の3を使用し続け、そのため島は不発弾や様々な廃棄物によって高度に汚染され、多くの住民が土地と生活を奪われた。しかし、プエルトリコ出身のアメリ連邦議会の議員やアメリカ本土に住んでいるプエルトリコ人たちの活動によって、この基地がもたらす問題がアメリカの政治課題となった。1999年の誤爆による民間警備員の死で転換点を迎え、2003年ついに海軍は演習場を放棄した。2004年にNaval Forces Southern Command (USNAVSO)の撤退や基地の閉鎖がなされた。米国政府は海軍を追い出されたことを逆恨みしてビエケス島民を罰している。ビスケス島の反米軍基地闘争は沖縄県辺野古反基地闘争に通ずる点があるだろう。


 プエルトリコは米国の州ではないため、全米50州が利用できる連邦破産法9条の措置を行使することができず、債務を繰り延べできない。現状では債務の削減には債権者との協議が必要となる。


 プエルトリコが抱える720億ドルの債務は、単一州地方債型ファンド(State Municipal Bond Fund)や複数州地方債型ファンド(National Municipal Bond Fund)と呼ばれる3兆7000億ドル規模の米地方債市場の一部である。
 1913年の内国歳入法により連邦政府課税標準の広い所得税を採用できるようになったが、州・地方債利子所得は連邦所得税からの免税措置が連邦税法によって定められている。
 プエルトリコ債は免税のメリットや高い利回りから、年金資金などの機関投資家や個人の投資家の間で人気があった。ハイ・イールド債などの金融商品にも組み込まれている。
 2013年に中西部ミシガン州デトロイト市は破産宣告したが、救済措置は受けなかった。オバマ大統領はプエルトリコに対して救済措置を与えないと明言している。
 プエルトリコ債務不履行を宣言すれば、米国の地方自治体史上、最大のデフォルトとなる。


 ビスケス島の米軍基地閉鎖を果たしたプエルトリコに対して、米政府が過酷な対応をする可能性は高い。「カリブ海に浮かぶギリシャ」と揶揄されるプエルトリコだが、仮に債務不履行を宣言すれば、それは単に一自治体の破産に留まらず、地方債ファンドや他の金融商品にも影響を及ぼす。
 米連邦準備理事会(FRB)はリーマン・ショック後、巨額の米国債モーゲージ担保証券(MBS)を買い入れて、金融市場の動揺を抑えた。これに米地方債の信用不安も加わると、結果的には更に量的緩和をして地方債の買い入れを行わざるを得なくなる。


 日銀の超量的緩和策を通じた米銀融通や、年金基金によるドル建て金融商品運用比率引上げは、実質的に米国金融市場救済であり、円の希釈化による通貨毀損政策である。
 仮に米地方債市場が混乱した場合、米国は更に日本側へ過大な要求を行うのか、それとも、米国自身で解決を図ろうするのか、注視しておかねばならない。


(参考)
米領プエルトリコギリシャ流の惨事FT 海外機関投資家の最大懸念は何か ギリシアでも米国利上げでもない警戒材料
http://www.asyura2.com/15/hasan98/msg/372.html
一州地方債型ファンド(State Municipal Bond Fund)
http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2007/2007sum15.pdf
アメリカ州 ・ 地方債市場における民間信用補完と州信用支援
http://www.biwako.shiga-u.ac.jp/eml/Ronso/334/334/334akiyama.PDF
プエルトリコ人民との連帯、新しい幕開け
http://ha6.seikyou.ne.jp/home/AALA-HOKKAIDO/muriente.htm
林博史『暴力と差別としての米軍基地』
http://blog.goo.ne.jp/sightsong/e/bc0bbcc8279a4c13de35d990dd5965a4
罰せられる島ビエケス 米軍撤退後も続く被害
http://democracynow.jp/video/20130502-2