医療被曝問題

 医療被曝と寿命の短縮の関係はおおよそ胸部X線撮影で1.5日、胃透視で1.5年、CTスキャンで150日とされる。
 日本の人口あたりのCT台数は、他の国の3.7倍である。全世界のCT設置台数の3分の1以上が日本にあり、総保有台数は飛び抜けて世界一となっている。日本の医療被曝の量は、世界平均の5倍に達している。X線CTスキャン被曝量は頭部CTで3mSv、腹部CTで8〜10mSv、腹部・骨盤CTでは1回20mSvと被曝量が多くなる。バリウムを飲んで行われる胃透視の被曝量は15〜20mSvである。胸部X線撮影の被曝量はCTの150分の1の0.06mSv程度の被曝線量である。移動式の検診車両で行われる胸部X線撮影は病院などに設置されている直接撮影措置に比べて、被爆線量が3〜10倍多くなるが、CTスキャンの被曝量に比べれば遥かに少ない。
 更に造影剤を血管内に注射してCTスキャンを取る事も行われており、造影剤なしと造影剤ありの2回スキャンが行われるので被曝量は2倍となる。
 癌検査においてはPET-CT検診という方法が使われている。PET-CTはポジトロン核種、フッ素18という放射性物質で標識した薬剤を静脈に注射して全身に行き渡らせ、その物質が出す放射線を体の外からCT撮影する方法である。PET-CTを行うとPET検査薬の被曝量4.4mSvにCTスキャンの被曝量が加算される。しかし、内部被曝を強要するPET検査の有効性は確認できていない。
 日本の検査漬け、薬漬け医療体制は1980年代に中曽根政権が貿易赤字で苦しむ米国と、医療検査機器や医薬品の輸入を合意してしまった事に起因する。
 私が得ている情報や近親者や知人の医療に対する関わり方とその弊害を勘案すると、定期的な検査そのものが不必要である事は明白であり、諸外国では定期的な医療検査を減らす方向にある。仮に何らかの症状が出て、体内に異状が有ることが確定的になった時に限り、対人影響の少ない手法で検査を行うべきである。胃腸の検査であれば、内視鏡カメラがあり、人体内の断層映像であれば、超音波検診が存在する。内視鏡も超音波検診も性能が良くなっているので、放射線を利用する検診を行う必要性は存在しない。仮に診察の上で人体断面画像が必要なら、高磁場や高周波を利用する磁気共鳴画像法(MRI)を利用した方が人体への打撃は少ない。
 原発事故による被曝量と医療被曝線量を比較して、原発事故被曝被害を矮小化する話が流布された。原発事故の場合は外部被曝内部被曝となる上、主たる被曝要因は内部被曝である。PETを除けば外部被曝だけを勘案すれば良い医療被曝でさえも対人影響を考慮せざるを得ないのであるのだから、環境中に核分裂物質が飛び散ってしまった福島原発事故とは最悪の事態なのである。
 国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告よると、公衆に対する線量限度は、1年あたり1mSvである。放射線作業従事者の線量限度は5年間の平均で年あたり20mSv、すなわち100mSv/5年である。
 であるから、CTスキャンの被曝線量は低線量とは言えない。ICRPの年率1mSv以下の低線量放射線被曝でも安全ではなく、これまでの研究成果により低線量被曝による悪影響閾値は存在しない事が判明している。1年1mSvを1時間単位にすると、空間線量は0.117μSv/hとなるが、これには半分は内部被曝を想定しているので、空間線量許容値は半分の0.0585μSv/hである。悲しいことに福島原発事故後は首都圏で空間線量が0.05μSv/h以下の所は大深度地下鉄など特殊な環境に限られる状態となった。被曝は累積するのである。我々は医療被曝に加えて原発事故による被曝が加算される状態有る。これにより様々な疾病発生要因となりうることを考慮すべきであり、医療被曝によって癌を製造している事を認識するべきである。

(参考)
15ヵ国のなかで、突出して医療被ばくが多い日本。
https://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/140805/