スピーカー振動板材質の変遷

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スピーカー振動板は主に密度が低く(約0.5〜0.6g/cm)内部損失が大きい特性を持つ紙系が用いられます。製作の容易さとスピーカーに要求される特性をバランス良く持っていることから「コーン紙」として寿命が長く、振動板材料の主流となっております。
コーン紙の製造技術は1920年代の初期段階では、抄造技術が低く、ドーナツ形状の紙の一部を切り取ってはぎ合わせるというお粗末なものでした。 1930年代後半になってやっとコーン型の型を作りそこにパルプを流し込み成型するシームレスコーンが作られるようになりました。コーン紙の性能はパルプの種類はもちろん、水、ph、叩解、抄造成型、2次処理などそのプロセスが音に大きな影響を与えます。
 従来多く使用されてきた紙系コーンですが、低音域では比較的良い音響特性を示しますが、高音域では歪を生じること、大きな出力が得られないこと、温度、湿度などに環境変化によって特性が変化することなどの欠点がありました。パルプコーンという生き物を扱う上でのばらつきの問題があるのです。それらの欠点を抑えるためにコーン紙を作る際には一つのパルプ(木材繊維)から作られることはまれで、複合的な材料を使うことで音質向上を狙うことが多いです。
人の可聴域は、20Hzから15kHzまでありますので、広い周波数範囲で一種類の振動板を理想的なピストン運動をさせ、歪みのない音響特性を得ることは困難でもあります。
 フルレンジユニットを用いたバックロードホーンスピーカーではツィーターを付加することによってトランジェント(過渡特性)の高い高音域を得て、歪み感をある程度解することができます。
金属系フルレンジユニットにおいても、ツィーターを付加することにより高音域のトランジェント改善になります。

■高分子系振動板材料
 高分子材料とは分子量が極めて多く、分子同士が近い距離で並んでいる物質のことです。代表的な素材としてはポリエチレン、ポリプロピレンサランラップに使われる)などのプレスチック繊維などです。
 これらの材料自体は1950年代に発明されましたが、スピーカー振動板として利用されるようになったのは1970年代後半からです。70年代に入ると解析技術や計測技術の発達によりスピーカー振動板に要求される物性が一層明確化され、紙系振動板物性値(比弾性率・物質が元に復元する早さ)の改良には限界があり、非紙系材料の新しいものが求められてきました。
 高分子系素材はハニカム構造や他の物質に張り合わせて利用されています。

熱可塑性樹脂
ポリプロピレン(PP)
ポリエチレン(PE)
ポリスチレン、ポリエチレンテレフタート(PET)
ポリメチルメタアクリレート
ピリメチルペンテン(TPX)
ポリオレフィン、ポリエーテルイミド(PEI)
液晶ポリマー(LCP)

熱硬化性樹脂(高い比強度、比弾性率を示す)
炭素繊維(CF)
アラミッド繊維(AF)
熱硬化性樹脂の複合材料(CFRP,AFRP)

■複合化振動板材料
 特徴は比弾性率が大きい、接着構造のため応力集中が避けられる、厚さを増したときの軽量化が図られる(高い曲げ剛性)(大口径化)などがあります。
 構造としては、ハニカム構造、サンドイッチ構造、多層板などがあります。
CFRP Carbon Fiber Reinforced Plastics炭素繊維強化プラスチック)カーボングラファイト(カーボンファイバー)GFRP (ガラス繊維強化プラスチック)
AFRP (アラミッド繊維強化プラスチック)

■セラミックス系振動板材料
 セラミックスとは「炉」の中で作るもののことをセラミックスと呼びます。
全結晶ダイヤモンド振動板
 全結晶ダイヤモンドは2000度に熱したタングステンフィラメントから出る周囲のガスを励気、分解して析出されます。ダイヤモンド振動板は、理論値である音速(17500m/s)に近い16200m/sとベリリウムの1.5倍強の速度が得られます。B&W800シリーズのツィーターに使用されています。
 ピュアボロン(B4C)は2005年に復活したダイヤトーンのDA-MA1のホーンツィーターに採用された材料です。従来の材料にない高い比弾性率と内部損失をもつ物質として注目されています。

■金属系振動板材料
 スピーカーは再生周波数帯域毎にツゥイータ、スコーカー、ウーハーに受け持たせ、全体の特性を向上させています。したがって振動板の材質もそれぞれ異なってきます。ツゥイータは早くから金属系振動板を用いて来ました。
 振動板材料に主として要求される特性に高比弾性率と高振動損失があります。比弾性率の平方根は振動板中を伝わる縦波の速度に等しく、音の伝播速度が速いほど音源の再生の際、高音限界周波数や最低共振周波数を高くして高音域を拡大します。また、振動板中での損失が大きいほど、振動の減衰が速く共振が起こりにくく、フラットな周波数特性が得られます。
 金属は紙パルプより一般に比弾性率は高く、アルミニウムやチタンやマグネシウムも現在使用されていますが、金属中もっとも比弾性率が高いのはベリリウムです。しかしベリリウムは加工性が極めて悪く、複雑な曲面形状を持つ振動板に機械加工することは困難でしたが、あらかじめ加工の容易な銅板を振動板形状に加工しておき、その内面に真空中で蒸発させたベリリウムを蒸着した後、銅を分離してベリリウム振動板を得る方法で、高温の伸びのある純度の高い音色の中・高音用スピーカーが製造されています。
 金属は比弾性率が高い反面、振動損失が小さい、このことは金属が設計によって共振周波数を可聴域外にもっていくことの可能な中・高音用スピーカーに適していても、低音用には向かない欠点があることを意味しています。もともと金属が持っていない高振動損失という特性を付与されユニークな金属に発砲金属があり、ニッケルの発砲金属を振動板に応用したウーハーが市販されています。発砲金属とは、海綿のような三次元の網目状の骨格構造を持つ多孔質金属で、その空孔率は98%にも達し、ポリウレタンフォームのような発泡樹脂に金属粉を塗布、焼結後樹脂を焼去して製造されています。
 超高剛性素材として先に挙げたベリリウム、全結晶質ダイアモンド、ボロン、カーボングラファイトなどがありますが、高音質素材として評価は非常に高いのですが、生産加工が高度であり大変に高価です。ハード系振動板の主流となっているチタン、アルミなどは比重が高かく(重い)、内部損失が低い(減衰性能が引くい)という欠点を持っています。
 チタン、アルミの欠点を改善でき、金属系振動板の特徴を生かした素材として減衰性能の高いマグネシウムが注目されてきました。近年、金型を200度以下に抑えて過熱する温間プレスによって0.05mmのマグネシウム成形が行なえるようになりました。併せて陰極酸化処理と薄膜電着塗装によって、薄型軽量のマグネシウム振動板の特性を損なわない薄膜の防錆処理を実現しました。
 金属系振動板の内部損失の低さを補う手法として、Victorのオプリコーン(非同心円)、Fostexのリッヂドームセンターラジエーター、HR振動板などがあります。

主な金属系振動板材料
PZT(圧電スピーカー)
アルミニウム
チタニウム
ベリリウム
マグネシウム合金

■各機種ごとの振動板材質
フルレンジ
DIATONE P-610DB パルコーン チタンのセンタードーム メカニカル2ウェイ P-610MP(復活品)

Fostex
FEシリーズ ピュア・パルプコーン 
6N-FE88ES ESコーン UDRタンジェンシャルエッジ
BC10 バイオセルロース Mo2.2g とローマス 高域は高品質だが低音が出にくい、108Σ 2.7g
BC-120 バイオセロースとケナフ Moは大きめ 5.0g ソフトでやさしい音
F120A マイカファインセラミックス・コーティング多層コーン センタードームはメカニカル2ウェイ
FX120 UPシリーズ後継 バイオセロースとケナフ繊維、マイカ配合の表面材をコーティング
UP120 パルプコーンの表面にファインセラミックス混入の樹脂材をコーティングした2層コーン メカニカル2ウェイ
FF165K
FF165N後継 ケナフを主体にバイオセルロースを少量混入 FE164
FF225K  ケナフコーン アルミセンターキャップ Nシリーズ改良型
FX220 バイオセルロースを主体にケナフとの混抄コーン
FE208ES バナナの繊維を使った星型三次元構造シングルコーン
PS200 硬く丈夫で軽いコーン、フィクスドエンジに近い強靭なサスペンション PA
MG850
マグネシウム リッヂドームセンターラジエータ
FE206ES-R ESコーンにラジアル抄紙技術
FE208ES-R ケナフ、カーボンファイバー、バイオセルロース、他2つ
MG100HR-S HG100HR純マグネシウHR振動板
ラジアル抄紙::コーン従来の抄紙技術では難しかったコーン紙の密度分布をコントロールし、中心部から外周部にかけて次第に密度を変化させることの出来る新開発抄紙技術
HR振動板:HP振動板の直線部にラウンドをつけて形状を若干変更したので"HR振動板"
補足 JBL LE8T-H コーラルのFシリーズやフォステクスのUPシリーズの原形ともなった名器。

JENSEN
J124FR カポック J165FR
JDS130MK? グラスファイバー系コーン ソフトドームのツィーター JDS165MK?
NDX16 カーボンクロス

JORDAN
JX62S アルミコーン
JX92 アルミコーン

Techics
10F10 パルプにコーティング、アルミセンターキャップ めり張りがある 10F20 14F10 16F20 20F20
20F10 センターキャップはボイスコイルから放射される高域を押さえる役割を持っています
採用されている純銅ショートリングにって高域のインピーダンスを抑えています

Victor
SX-100 コーン・センタードーム共にアルミ メカニカル2ウェイ

ツィーター
Fostex
FT17H アルミダヤフラムにプラスチックホーンFT27D 合繊系ソフトドーム・トゥイター、プラチックフレーム
FT38D アルミドームに多孔質ファインセラミックをプレーティング
FT48D UFLC振動板
FT60H グラスファイバーを樹脂でサンドイッチし、更に表面金属蒸着、裏面樹脂膜でカバーした5層構造ダイヤフラムT300A PCPD Φ40mmダイヤフラム
T500A PCPD Φ20mmダイヤフラム アルミ合金に多孔質セラミックスプレーティング音もさわやかで繊細で美しい
T500A MK? 純マグネシウム
T250D純マグネシウム Φ25mmリッジドーム

Pioneer
PT-R9 ベリリウム・リボン線
PT-150 ベリリウム・ドーム

Techics 
5HH10 チタンダイヤフラム

Victor SX-500D? シルク・ソフトドーム

YAMAHA
JA-0506? ジュラルミン(アルミ合金)

ホーンドライバー
Fostex
D1400 D1405 チタン合金ダイヤフラム

Pioneer TAD TD-4001 TD-2001 ベリリウム

エール音響 チタン・マグネシウムなどを使用。近年はベリリウムへの振動板換装サービスを行なっています。

参考書籍
新版 スピーカー&エンクロージャー百科 監修 佐伯多門長岡鉄男のオリジナルスピーカー設計術 Spesial Edition 基礎知識編