近年のオーディオ雑感

1.音を聞く
 長岡鉄男氏は「音を聞く」事を重視し、音の過渡特性(トランジェント)を重視した。フルレンジユニットを使用し、キャビネットはバックロードホーンもしくは共鳴管を使用した。
 レコードやFM放送がソースの主体であった時代は、オーディオとは音楽を聞く事とほぼ同意義であった。しかし、テレビ放送のデジタル化やLD・DVD・ブルーレイと映像パケージソフトの品位が向上し、オーディオもしくはホームシアターで台詞や効果音などの「音を聞く」事が増えた。「音楽性豊かな表現」という曖昧さよりも、より正確に録音された状態を再現することが重要となったのである。もっとも、音楽といえども、声音や楽器の集合体であり、音を聞くことに変わりない。
 実際のドラムのハイハットはエネルギッシュに「ギャン」と鳴り、バスドラは「ドン」ではなく素早く「ドッ」と鳴る。多くの人は生音に接する機会があまりないので、オーディオ装置で再現された音が原因からかけ離れていても違和感を持つ人が少ない。ところが、雷鳴を再生させれば、さすがに誰もが差異に気がつく。長岡バックロードの真骨頂は雷鳴や爆音の再生であり、映像ソフトの効果音を聞いて、その真価にハッっとさせられる。しかし、長岡BHが不利なのはキャビネットはホーン長の関係で一般的なスピーカーよりも、必ずある程度大きくなる事である。構造も複雑で、木工精度が求められ、工作過程が多いので大量生産に向かない上に、大型スピーカーは物流費用を増大させる。
 メーカーはスピーカーの小型化を狙い、バスレフ型に重い振動板を用いたウーハーユニットとツィーターの構成品を主体とした。これが過渡特性の悪化を招いた。パソコン時代になり、小型フルレンジ+サブウーハー構成の物が発売され、低音はともかく、中高音の再生音は品位の高いものがある。


2.長岡バックロードホーン
 自作派として、優位点があるのは、荒っぽく言えば「キャビネットが大きくて良いのなら」バックロードホーンと共鳴管型であり、小型化するのであればダブルバスレフ型である。
 長岡バックロードホーンは低Qoの磁束密度の高いユニットが要求される。20cm級なら最低でもFE208Sは必要である。低Qoのユニットを使わないと、締りのない低音となり、付帯音が発生しやすくなる。その場合、低音の量感が増すので、一般的には好評価となるのかもしれないが、原音再生の視点から見ると望ましくない。ウーハー寄りのユニットを使うと低音の量感は出るが、ドロドロした感じの緩い低音となってしまうのだ。
 長岡BHの特徴はスロート断面積をユニット振動板面積と同等程度と広めにとり、開口率を1.1と低くする。ホーン長はユニット口径によって変わるが2.6m-4mと長い。かつてあったメーカーの古い設計のものとは開口率もホーン長にも違いがある。
 D-50以降はコンスタントワイド型だが、D-7の頃はコニカルワイド型であった。コニカルワイド型の方が素直な低音と言われている。コンスタントワイド型BHは多段のバスレフポートとみなせるとの説もある。


3.ダブルバスレフ(位相反転型)
 トリプルバスレフ型やM-CAPと呼ばれる複数の第二空気室を持つタイプも存在するが、個人的に聞いた経験においては、ダブルバスレフの設計を最適化すれば、ほぼ同等の低音量感を得ることが出来ると思われる。ちなみに、トリプルバスレフ型はポートが直接でないと、的確に動作しない。


4.共鳴管
 共鳴管型は鈴木氏により「ハイブリッド・レゾナンス」が提唱されており、ユニット背後の共鳴管から断面積を3倍以上にして一度折り返しした共鳴管での低音の音圧特性が良いという事である。長岡BHよりもキャビネット構造を大幅に簡略化する事が可能であり、長岡BH並の低音量感が得られるのなら置き換えも可能であるかもしれない。共鳴管としての最低共鳴周波数によってキャビネット高が決定する。実用的には60Hz程度で十分なので、仮に共鳴管の最低共振周波数を20Hzで4mとすれば、高さ66cm(60Hz/133cm長)のキャビネットで十分となる。


5.40Hz以下は聞こえない
 体格などの個体差によるが、人は40Hz以下は聞こえない。ただし、音波振動により体感することは出来る。基本的に40Hz以下の再生にこだわる必要はない。超低周波建物を揺すり騒音公害の元となる。これにより、40Hz再生を考えれば共鳴管の長さは2m程度で十分となる。
 20cmユニットでfoは40Hz付近である。基本的に20cmより大きなユニットは不要だと思われる。
 近年のJ-Popでは低音の量感を稼ぐために不自然に40Hz付近をブーストした録音がある。一方で40Hz以下は切ってしまっている。ある意味合理的とも言えるが、40Hzを高いレベルで再生出来る長岡BH(モア)で聞くと、低音がドカドカ出てきてボーカルとバランスしない。商業的理由から小型スピーカーでも低音がでるように極点に人造的なミキシングを行う行為は避けるべきである。


6.絶縁トランスの効果(アイソレーショントランス)
 高周波ノイズ対策として、絶縁トランスを壁コンセントと電源コードの間に入れると効果が得られる。但しオーディオ品質のトランス電源を積んだ機器では効果が殆どなく、スイッチング電源を用いた機器類であるプロジェクターやテレビ、パソコンやゲーム機では効果がある。具体的には映像のノイズ感が減る。
 1980年代などのCDプレイヤー内部のノイズが多いものでは効果がでる。商用電源に含まれる外来のノイズをカットする効用もある。
 プレイヤー・アンプ・映像機器同士を音声・映像伝送ケーブルで接続しているが、更に電源ラインによりループ状となり、高周波ノイズが乗ってくる。絶縁トランスはこのループを回る高周波ノイズをカットして低減させる。
 絶縁トランスにあまり大きな容量を用いると電気結合が大きくなって効果が落ちる。また、絶縁トランスの容量一杯に機器を接続して使用すると、唸るトランスがある。
 低音が量感減るので、基本的にアンプには絶縁トランスは使わない。仮に使うとすれば5kVA以上の大きな絶縁トランスを用いる。
 裸の絶縁トランスを購入し、配線などを自作する記事が雑誌やウェブで散見されるが、電磁漏洩などや電気事故を考えると推奨できない。メーカー製を購入した方が安全である。
 ちなみに、Stereo誌が「マイトランス」などと称して、電力会社に自宅直近箇所に変電トランスを設置させて音質改善したなどと記事を書いていたが、付近一帯のトランスがコンデンサーとして並列動作しているので、ほぼ無意味である。


7.電源コードのグレードアップ
 電源コードを幾つか買って交換してみたが、結論から言えば、最初に使っていた電源コードが細い場合、太いコードに変更すれば効果が得られる。しかし、既に太いコードを使っている場合から変更しても、「音は変化する」が良くなったとは限らない程に微々たる変化である。室内配線は良くて2mmΦのVVFケーブルだが、近年は銅価格の上昇により1.6mmΦのVVFを用いる事が増えている。
 壁コンセントからオーディオ機器までのコードを換えたところで、元のコードが明確に劣悪でない限り変化が少ないのは当然である。仮に自作するならVVFケーブルで十分であり、ソニーの金井氏もVVFの自作電源コードを上回る高額の電源コードは無かったと記述している。
 メーカー製のホスピタルグレードコネクターを使用した電源コードはコンセントから抜けづらいという利点はある。
 超高額な電源ケーブルが売られているが、詐欺商法である。電源コードはヤフオク相場で3000-5000円程度のもので必要にして十分だ。


8.デジタル伝送ケーブル
 HDMIケーブル及びi.Linkケーブルはオーディオ品質でシールドがしっかりしたものを選んだほうが良い。アナログケーブルよりも明瞭に差がでる。推測だが、アナログケーブルよりもデジタルケーブルでは伝送する周波数帯域が高いので外来ノイズ対策が必須なのだと思われる。とはいえ、3000円程度のモンスターケーブル(米国製)でおおよその品質は保たれている。


9.ツィーターのパッシブネットワーク回路
 ツィーターは高音域の過渡特性を向上させる。シンプルがモットーの長岡氏はコンデンサーを直列に1つ繋ぐ-6dbカットオフ型を推奨していた。敢えて下の周波数までツィーターから出力させて、過渡特性を改善する音域を広げる意味合いもあったのかもしれない。できうるのなら、ネットワーク回路は-18db型の方が下の周波数を急峻にカットできるので、ツィータへの負荷が減り、高音域の過渡特性が向上すると思われる。コイルはユニットに対して並列接続なので、音質劣化は少ない。


10.スキャンスピークのネオジム磁石ユニット
5F/8422-T03(Stereo誌2012年8月号付録)
5F/8422T01 5cm市販品

ネオジム磁石により磁束密度が高く、過渡特性が良い。
ボイスコイル口径が26mmと大きい。
振動板直径が小さいことにより4khzぐらいまでピストン・モーション(振動)する。生録音した尺八の「かすれた」感じを表現した。

Scansperk 10F/8424G00
高音域まで過渡特性が良いので、ツィーターは不要であり、本当の意味でのフルレンジユニットと言える。